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インバウンド消費は「買い物」から「体験」へ。訪日外国人をひきつける秘けつとは?

インバウンド消費の風向きが変わりつつあります。家電量販店のラオックスでは、2016年の営業利益が前年比で9割減少するなど、「爆買い」現象は一時期の勢いを失いつつあります。そんななか、飲食やエコツーリズムなどの体験型消費、いわゆる「コト消費」は堅調に推移しています。

インバウンド消費の傾向の変化

2015年に訪日外国人が「買い物」に支出した平均金額は約75,000円でした。対して2016年の買い物額は約54,000円です。約30%という大幅な減少を見せています(※1)。
※1:訪日外国人消費動向調査|観光庁、平成27年・28年7月~9月期報告書:費目別支出より。

ただし、この状況だけを見て「インバウンド消費が冷え込んでしまった」と決め付けるのは早計です。なぜなら、インバウンド消費全体に占める「サービス」「宿泊」「飲食」支出の割合は、以前の正常な水準に戻ったと考えられるからです。
2016年のインバウンド消費全体に占める「買い物」支出の割合は34.5%でした。2015年の40.4%から約15%減少しています。一方「サービス・宿泊」支出の割合は、2015年から2016年にかけて29.4%から32.0%へ上昇、「飲食」支出の割合も18.4%から21.1%へと増加しています。2014年の「サービス・宿泊」支出が全体の33.5%、「飲食」支出が21.9%だったことを考えると、2016年の数値は「爆買い」以前の2014年に近いものです。
円安や免税品目拡大による買い物支出の拡大傾向が一服し、インバウンド消費の内訳は日本食や日本文化を体験する「コト消費」へと向かっています。

事例1)外国人観光客人気No.1の日本食とは?

「日本食」や「和食」という言葉から私達日本人が連想するものといえば、寿司・てんぷら・そばといった料理ではないでしょうか。ところが、訪日外国人を対象とした「おいしかった食べ物は何ですか?」という調査で第一位に挙がったものは、意外な料理でした。それはなんと……「ラーメン」だったのです(※3)。
※2:訪日旅行者の実態調査|HOT PEPPERより。

ラーメン(中華麺)は、江戸時代から明治時代にかけて中国から日本に伝わったとされています(※4)。その後100年以上の競争をへた結果、日本のラーメンは独自の進化を遂げました。濃厚な旨味を持つスープ、お好みの硬さを選べる麺、スープを持たない油そば、麺とスープを分離したつけ麺……。さまざまなバリエーションと味をリーズナブルな値段で楽しめるラーメン。舌の肥えた外国人観光客に「日本食」として認められたのも当然の結果と言えるでしょう。
※3:日本のラーメンの歴史|新横浜ラーメン博物館より。

事例2)温泉のサルを一目見ようと集まる外国人観光客

長野県の「地獄谷野猿公苑」(じごくだにやえんこうえん)。ここは、温泉で暖を取るニホンザルを観察できることで有名な自然公園です。LIFE誌の表紙に取り上げられたことや、1997年の長野オリンピックをきっかけとして、多くの外国人に知られるようになりました。ニホンザルが温泉に入る季節には、日本人よりも外国人観光客の姿が目立つほどです(※5)。
1964年に開園したこの自然公園では、野生のニホンザル本来の行動を尊重しています。動物園のような柵や檻は使用せず、自由に動き回るニホンザルの姿を観察できます。動物好きな外国人観光客にとって、魅力的な観光地となっています。
地獄谷野猿公苑に行くためには、電車やバスを乗り継がなければなりません。最寄りのバス停からも30分以上歩く必要があります。そんな交通の便の悪さにも関わらず、この自然公園には外国人観光客の訪問が絶えません。提供する体験の種類によっては、立地の悪さは大きな障害にはならないことを、地獄谷野猿公苑は証明しています。
※4:「外国人が殺到する秘境 地獄谷野猿公苑」|事業構想大学大学院より。

事例3)人もまばらな農村に外国人観光客が続々と来訪するワケ

岐阜県飛騨市古川町。世界遺産などの特別な観光名所があるわけでもないこの場所に、外国人観光客が次々と訪れています。お目当ては「サトヤマ・エクスペリエンス」という体験型プログラム。サイクリング、町歩き、古民家への宿泊、農作業への参加など、農村の日常を体験できるツアーです。ツアー参加者の7割を外国人が占めています(※6)。
古川町の隣には、世界的に有名な観光地・高山市が存在しています。強力なライバルを隣に持ち、「日本の原風景」のみをセールスポイントにして集客するには不利な状況でした。そこで古川町は「地域の人々とのふれあい」というコミュニケーション要素を追加しました。見知らぬ土地を旅する観光客は、地元の人々とのコミュニケーションを求めているもの。自らの町の強みと顧客のニーズを見極め、ライバル(隣の高山市)の集客力をも利用した見事な成功事例と言えるでしょう。
※5参考:「インバウンドビジネス入門講座 第2版」(著:村山慶輔)

まとめ:コト消費へと向かう世界

爆買いブームが去っても、外国人観光客の日本への興味そのものが消えることはありません。日本独自の食事、自然、生活風景など、外国人の心をつかむ素材は日本全国に存在しています。消費の中心が買い物から体験へ移行しつつある状況は、世界的なすう勢でもあります。これからのビジネスには「モノ消費」ではなく「コト消費」の視点が欠かせません。

参考:

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