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【UDS 社長 中川敬文】何よりも大切なのは個別対応。お客様を「インバウンド」で括らない

誰もが「インバウンド」に関わる時代

———現在の中川さんのUDSとしての取り組みやターゲットを教えていただいてもよろしいでしょうか。

中川: 会社としてはホテルを最注力で今やっています。これはインバウンド時代だからということも大きいですし、数というよりもいいホテルがまだ少ないんじゃないかということで、そこにチャンスがあるんじゃないかと思って。

エリアとしては海外と地方を意識してやっています。中国は進出をして7~8年。それから昨年韓国にも現地法人を立ち上げました。京都でやってきたホテルブランド「アンテルーム 」をソウルに開業する予定です。

わたし自身は今地方案件を中心にやっています。地方創生と言われている中で、毎年の地方創生予算がどこまで有効に使われているのか。まだまだ、有効な地方のまちづくりを提案していく余地があるのではないか、そこに我々のチャンスがあるんじゃないかなということで、ホテル、海外、地方が今のメインの取り組み、テーマです。

———中川さんの目から見た、ゲスト側ではなくサポーター側としてのインバウンド市場についてお聞かせください

中川: 今ちょうど、滋賀県の近江兄弟社高校で、インバウンドと「創造的おもてなし」をテーマに授業をやっているんですけど。そこで彼らに見せている、日本の産業に関するデータがあります。それによると、日本の主要産業は自動車、半導体、鉄鋼、自動車部品ときて、第5位はインバウンド産業なんですよ。所謂観光産業というのは今までホテル、宿泊、交通、飲食じゃないですか。でも今となってはもはや洋服屋さんだってインバウンドを意識しなくてはいけないし、ドラッグストアだってそう。全ての産業が観光に関連していると言っても、過言ではない。つまりそれはインバウンド産業なんだと考えています。

高橋: おもしろい!インバウンド産業いいですね。

中川: そういう捉え方をわたしはしているので、旅行とか観光にとらわれずに、全てのビジネスマンがインバウンドを意識しないと、食べていけないと思っているんですよ。例えば介護や看護業界も、人材はどこで調達しているかと言うと、外国人ですね。これも広義でのインバウンドと考えれば、介護業界もインバウンドなしには成立しないんですよね。そこで問われるのは何かと言うと、外国人に対して、日本の良さを活かした対応をすることだと思っていて、それを僕は「創造的おもてなし」と定義しています。この「創造的おもてなし」を全ビジネスマンがこれから身につけなければいけないと思っています。

日本人ならではの踏み込み過ぎない「おもてなし」ももちろん素晴らしいのですが、もっともっとそれを現代に合わせてアップデートしていかなきゃいけない部分もあるんじゃないかなという意味です。

———インバウンドは産業として大きな成長の可能性がある一方で、一般の人々に浸透しきっていないのも事実ですよね。

中川:今福祉の仕事が多くなってきたので調べていたら、介護人材が2025年までに55万人足りないらしいんですよ。日本全国の郵便局員と警察官を合わせても足りないぐらいの数ですから到底日本では賄えなくなる。その人材を拠出してくれる国がどこかと言うと、ベトナムとインドネシア、フィリピン。この3カ国なんだけれど、その人材はどこに行っているかと言うと、香港や台湾。香港、台湾は先に手を打っているんです。

じゃあ、日本はどうする?ってなりますよね。やはりインバウンドで働きに来てもらう人とコミュニケーションを取っていかないと、人材不足で介護が立ち行かなくなる。そうなると、地方のおじいさんおばあさんにもインバウンドは関わってくる話なんですよね。「聞いたことないけど、なんだ?」みたいなことはもう言っていられない時代なのです。

高校で授業をするときは、生徒に「インバウンドって言葉を聞いたことがある人?」って毎回聞くんですけど、だいたいいつも20人中1~2人しか、聞いたことがあるという人がいなくて。この間も2人だけでした。かろうじて「インバウンドって要は爆買い?」みたいなイメージしかないんです。それは親が家で正しいことを話せていないということだし、先生が学校で話せていないということじゃないですか。僕は何に1番危機感があるかと言うと、インバウンドに関わることに関してちゃんと教育していないということです。「国語、算数、理科、社会、インバウンドだろ」というくらいの感じが僕にはあるんですよね。それは言語に関することももちろんそうなんですけれど、それ以外のところも重要ではないかと思います。日本って急にかしこまって、国際化で英語を学習しましょうみたいになっちゃうところがありますが、学校として海外の人を招いて、笑顔でその国の母国語で挨拶してみる、といった交流をするだけでも違うと思います。

語学以前に朗らかに楽しむとかいたわるとか、相手の気持ちに立って、知らない国に1人で来たらどうだろうなってことを考える。自分の立場からの視点だけで内向的に考えてしまうことが、インバウンド産業では1番のリスクなんじゃないかなと思いますね。

ベンチャーでやっていても、すごくそれは感じていて。自分の会社はこういう世界観だからって規定したがるじゃないですか。確かに一体感を持ってブランドを作らなきゃ勝てないんですけど、それは内向化のリスクと裏腹で、やりすぎると今度は自分の会社さえ良ければいい、になってしまう。自分の常識が世界でも通用するんだ、なんて考えていても、実際は当然、世の中そんなに自分のことなんて知らないし、誰だよお前ってなっちゃうから。だからこそマネジメントする人とか先生とか、リーダーシップを取る人が相手目線でインバウンドを伝えるというのがすごく大事だと思います。

何よりも大切なのは個別対応。お客様を「インバウンド」で括らない、という視点

———ホテルのインバウンド対応で意識されていることはありますか? 

中川: そうですね。国別のきめ細やかな対応をきちっとしてあげるということかな、と。「インバウンド」って大雑把に、ひとくくりにしてしまっていますが、当然中国の方と、台湾の方は違う。欧米と言ったって、アメリカとフランスだって全然志向性が違いますし。

UDSが経営するホテル カンラ 京都では、フランス人の比率がちょっと増えてきているんですが、フランス人ってフランス語を喋れるスタッフが対応するだけで、満足度がすごく上がる。だったらちょっと戦略的にフランス語ができるスタッフを配置しておこう、とか。一方でイタリア人やスペイン人は特にこだわらずに英語で良い。韓国人は別に韓国語には喜ばない。でも中国人は中国語しかできない人も多いので……というように、言語対応1つでも結構ありますよね。私たちはそういうところを意識しています。

高橋: それの表裏一体でそれがそのまま現行の日本のホテル業界の課題になるように感じます。紋切り型で、サイト制作は4言語みたいな形じゃないですか。簡体字、韓国、それから英語。紋切り型でこの4言語なんですけど、ひょっとしたら1番ホテルに多いのってロシア人かもしれないじゃないですか。という風に目の前にいらっしゃっているお客さんも見るべし、みたいな感じもします。

中川: さらにいうと「日本」と「インバウンド」とを分けて考える必要はないような気がしていて。インバウンド対応と聞くと全部言語の話に落とし込みがちじゃないですか。本質はそこではないかなという。

高橋: おっしゃる通りですね。

中川:日本のお客様が来るときはみんな考えるわけですよ。なんとかさんはエビ、カニ大丈夫だっけ?とか肉と魚のバランスはどうか?とか。鉄板とイタリアンはどっちがいいかなとかいろいろ考えますよね。部屋に何を用意しておけばいいかとか。そういうことをインバウンドの人にも普通にやるというところだとは思うんですよね。本当にフランス人はどういう過ごし方とどういう料理が好きなんだろうとか。

最終的には当たり前のことを当たり前に、という。個別対応というところ。インバウンドだから、言語さえやっておけばいいだろうという話では全然なくて。その先の方が長いんじゃないかな。

高橋: 当たり前のことを当たり前に、全て「お客様」というセグメントで、ということですね。

中川: そうですね。個別対応は必須かなという気がしてきますし。あとはどうやって記憶してリピートを繋げるかというのは、各ホテルで僕らはかなり重視していますね。

———富裕層をターゲットにしたホテルについてはいかがでしょうか。

中川:富裕層の方は要するに目や舌、耳が肥えていると。伝達していくためにはその方からの口コミというのが1番のメディアだと思うので、どう満足してもらうかというところに尽きると思います。

そうすると、接客もただ他と同じような接客をしていても、それは相手の心には残らないので。やっぱり勇気を出して、自分らしさを出したり、「キャラを立て」ながら個性を伸ばしたりすることが大切なのかなと思います。本当にその人にとっていいと思うことを、少しリスキーだけど、シフトの時間を超えてでも時間をかけて接客しちゃったという話とか。そういう少し飛び越えたことをすると、富裕層ほどそういうことにはすごく反応をしていただいて。それが強烈な応援団になって、リピートもしてくれれば、紹介もしてくれるんじゃないかと。

高齢化と向き合う。マイナスをプラスに変えるノウハウに秘められた可能性

———最後になりますが、今後UDSや個人を通じて、叶えていきたいことがあればお聞かせください。

中川:クリエイティビティがクリエイターだけのものではないという世の中にはしたいと思いますね。創造性、クリエイティビティと言うと、一握りのかっこいいクリエイターたちのもの、というイメージがあります。でも、実際は町工場で働く職人さんだってクリエイティビティが必要ですし。全インバウンド時代になってきたら、どうやって差別化するんですか?とか。デジタルマーケティングでもそうですけど、AIやテクノロジーとどうやって向き合っていきますか?と言ったら、答えは1つしかなくて、新しいものを産む力をつけるしかないと思うんですが、それはすごく一握りの人達のものというイメージが強いですよね。僕自身がクリエイターでも建築家でもなんでもないから、余計思うんですけど。声を大にしてクリエイティビティを養おうと。これは70のおじいさんもやった方がいいんじゃないかなという気はします。

それから、もう1つは個人的な話なんですけど、いまの自分の中でのキーワードがジェロントロジーという言葉で。それは高齢化社会システム工学みたいな感じなんですよ。老年学とも言われるんですけれども。

今日本が超高齢社会だって言われているのは、高齢化率が約28%で、これからその人たちの方が多くなる。つまり、高齢者が社会なんだという風になってくると、今までのように「高齢者のためにアレンジする」ではダメになる。高齢者がメインの時代になってくるので、社会の仕組みを作り直さなければならない。日本以外でも、韓国が2060年には高齢化率が46%になるという予測もある。中国も一人っ子政策が長かったので、一気にくる。そういったときに日本が中国、韓国に高齢化社会の先輩として、社会システムの仕組みを持っていれば、日本が引っ張って行く存在にもなれると考えています。自国の人口は減っていっても、人口減少と高齢化に関するノウハウ、サバイバルノウハウにテクノロジーを重ね合わせてやっていくことに可能性を感じています。

今までUDSがやってきた新しいまちづくり、場づくり、楽しみ方というのを高齢者にシフトをして、新しいものを作ることができれば、それが今度は中国、韓国への輸出のモデルになるんじゃないかという風に考えています。そうするとインバウンドが掛け算できる。高齢化×インバウンド×テクノロジーというところに大きな価値があると思うので、それをちゃんと整備をしていきたいと考えています。

今地方の仕事を多くしている理由というのは、地方は東京の先行モデルなんですよね。例えば高齢化率がもっとも高いと言われている秋田県は、東京よりも10ポイントも高い高齢化率です。そういった課題先進地域でちゃんと事前に事例を作っておけば、東京でできるし、そのあと中国などへと繋がっていく。そういう意味では人口1万人ぐらいの地方が今、世界最先端モデルという感じだと思って取り組んでいます。

地方は人口とプレイヤーが少ないから、テクノロジーの有用価値がすごく高いし、おもしろいなと思います。この5年で、優秀な人を集めてしっかり事業にもなるモデルをみんなで作っていけばいいんじゃないかなという気はしますね。

高橋: ありがとうございます。すごく勉強になりました。立場は変われど、すごく共感する話が多かったです。

中川: ありがとうございます。

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