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2020年の東京五輪・パラリンピックが迫る中、ますます注目が集まるインバウンド市場。外国人観光客を呼び込むため、今の事業者に必要なこととは何か。インバウンド消費活性化牽引役の一人、ジャパンショッピングツーリズム協会代表理事・事務局長、USPジャパン社長の新津 研一さんと、株式会社LIFE PEPPER取締役、高橋 佑輔の対談をお届けします。
外国人観光客が多いのは「当たり前」の時代
ーはじめに、新津さんのご経歴と、現在取り組まれていることを教えてください。
新津:私はもともと百貨店に勤務しており、来店の促進から苦情対応まで担当してお客様対応を学びました。現在は、お客様対応のプロとしての目線を活かし、小売業を中心としたマーケティング支援を行っています。 その中で特に力を入れているのがインバウンド。訪日客数の伸び率や購入する商品の金額をみると、外国人観光客というお客様がいま一番、商品を提案すべき相手だと考えているからです。そのため、民間、行政問わず、業界の枠を超え、インバウンド対策を推進しています。全国各地で講演を行うほか、観光立国推進協議の幹事や、2020年の東京五輪・パラリンピックに向けた多言語対応協議会の議長も務めています。
ー現在のインバウンド市場のトレンドについて、どう見ていらっしゃいますか。
新津:みなさん「現在のインバウンドでのトレンド」を聞かれるんですけど、多くの方が見落としがちな点があります。 それは、2012 年に日本を訪れる訪日客が1000 万人を超え、2018年には3000万人を突破する見込みが濃厚。さらにこれから、4000万人から6000万人になる見込みがあるということです。 この急拡大ともいえる量的規模拡大のトレンドを踏まえていない人がものすごく多い気がします。例えば、1000 万人が3000 万人になったということは、日本の人口 1 億 3000 万人が5 億人になったのと同じくらいのインパクトなんですよ。 この大きさを把握せずして、国籍別とか、年齢別とか、商品動向別のデータだけを把握しても意味がないんです。だけどみなさん、トレンドやリピーターの増加に目が行きがちです。 まとめると、訪日客数は1000 万人を突破してからずっと爆発的な増加が続いているということが一番大きなトレンドですし、トレンドの変化の前にしっかり理解すべきことだと思います。
ー量的なトレンドの変化を受け、事業者としてはどうやってインバウンド事業に向き合っていくべきですか?
新津:今申し上げたとおり、インバウンドにおける最大のトレンドは量的な変化です。問題は「世界中に訪日ブームが起きてる」と言っている人が、まだ山のようにいることです。 そもそも世界中で海外旅行をしている人はすでに 13 億人を超えていて、日本にはその中の 3000 万人しか来ていない。海外旅行する人は世界中に山のようにいて、日本以外の国には自由に行き来していたんです。その中で日本だけは、外からのお客様が来れないように鎖国していました。5 年前にビザを緩和したことで、ようやく日本に入れるようになったので外国人観光客が増えただけなんです。急にお客様がリッチになったとか、海外旅行慣れしてきたとか、そういうわけじゃないんですよ。だから、「訪日ブーム」なんてものははじめからないんです。 日本は、世界のOne of them になったからここまで成長することができました。日本だけだったら、もうこんなに成長できない。世界の一員になったからこれだけ成長しているという、大きなトレンドの変化に気づかなければなりません。 日本の事業者は、これまでの意識に革命を起こさないと、今後の新時代に対応できないと思います。
相手を理解し、当事者目線のおもてなしを
ー商品や集客、接客など、外国人観光客を迎えるときに気を付けるべきなのはどんなところでしょうか。
新津:まず商品でいうと「外国人向け」の商品はだめですね。「外国人向け」に商品開発したり、建物作ったりサービスを作ったりで大成功しているケースは見たことがありません。 各国ごとに良いと思うものに差はありますが、7割くらいは感覚的に一緒です。なのに、みんな 3 割の違いに目を向けて議論してしまう。まず、大多数の 7 割に良いと思ってもらえるものを作るべきです。 大多数の 7 割がわかりにくいので、いつも話す例があります。日本の店で、アップルパイとミートパイが並んでいても、食べ慣れない外国人観光客にはどっちがアップルでどっちがミートなのかわからないですよね。カタカナでは「アップル、ミート」と書いてありますが、英語表記がないんです。 インバウンドに対応するなら、英語で「Apple、meat」って書けばいいじゃないですか。カタカナでアップル、ミートと書いていても、外国人観光客は一生買えないわけですよ。大多数の7割のためには、単純に多言語表記にするとか、まずはそういう工夫で良いんです。 それと、外国人観光客に何がうけるかは、実際にその国に旅行に行って探るべきですよね。Webでアンケートをしたり、本を読んだりするより、実際に行って聞いてみればいいんですよ。その点は社員に外国人メンバーが多く、外国人のコミュニティを持っているLIFE PEPPERさんの強いところですね。 高橋:ありがとうございます。確かに行ってみないとわからない感覚は多いですよね。たとえば台湾人は、日本の街並みが好きなんです。じゃあ何が刺さっているのか、どこが日本らしいと思うのか。台湾に行くと、窓に鉄格子がついた家が多いので、鉄格子がない所が良いんだなとわかりますし、「ちびまる子ちゃん」が国民的なアニメになっているので、日本の代表的な街並みといえばあれ、という認識があることもわかります。ポイントは、台湾の方に限らずお客様である外国人の目でどう映るか?という視点を意識することです。 新津:次に集客に関しては比較的しやすい国と難しい国があると思います。インバウンドを始めるなら、まず客数の多い中国。ただ、中国は必ずインバウンドをすべき国ではあるものの、人口が多くて土地が広く、情報感度が日本と違うので市場を攻略するのが難しいんですよね。次に候補にあがるのは香港、台湾、韓国。これらの国は面積が小さく、情報感度も日本とほぼ一緒なので集客しやすいと思います。 高橋:接客に関してはどうでしょうか。私たちがインバウンドのマーケティングをした時、外国人観光客の来店数を一時的に増やすことはできても、プロモーションやキャンペーンが終了したら一気にいなくなってしまうことがあります。小売店さん側は、せっかく外国人観光客に来てもらっても、扱い方がわからず対応できない場合があります。そんな時はどうすれば良いでしょうか。 新津:私はインバウンドは顧客戦略だと考えているので、一番大事なのはお客さんを好きになることだと思っています。今は、KOL(Key Opinion Leader) に情報発信してもらって、デジタルマーケティングでインバウンドをやるのがいいという手法論が先行して、専門の会社に頼めばなんとかなると発注される方がほとんどです。 しかし本当に大事なことは、飛行機で何万円も何時間もかけて来てくれた外国人観光客に対して、踏み込んでコミュニケーションすること。ハグしてもいいくらいだと思うんですよ。相手への知識と愛情を高めて接客して、楽しんで帰ってもらうことが、インバウンド成功の秘訣なんじゃないかと思います。 もともと日本の商売人に、相手に嫌な思いをさせようという人は少ないと思うんですよ。女性向けの商品を扱う店に男性客が来ても、ちゃんともてなすじゃないですか。外国人観光客に対しては、ひたすら苦手意識だと思います。もてなし方がわかっていないんです。 それは接客用語を見ても明らか。「いつもありがとう」「またお越しください」などの言葉は、近くに住んでいるリピーター向けの言葉です。外国人観光客に向けてなら、「どこから来たんですか」とか「良い旅を」という言葉のほうが良い。日本人は本来、ホスピタリティに溢れているはずなんです。「ツーリスト」という新しいお客さんについて理解が進めば、どんどん日本の接客は豊かになるはずです。
ツーリストが求める「リアル」を忘れない
ーインバウンドの課題を解決する支援事業者については、どう見ていらっしゃいますか。
新津:今の日本で、インバウンドの問題をすべて単独で解決できる支援事業者はほとんどいないと思っています。インバウンドの市場ができて 5 年ほどしか経っていないので、知見も経験も集まり切っていません。なので、訪日市場動向とかから話を始めて、言ってもらえればなんでも簡単にできますよ、みたいな支援事業者さんは、やめたほうがいいかもしれない。うちはこういう市場のこういうところが得意ですっていう風に言える支援事業者さんが信頼に値すると思いますね。 それから、インバウンドに対してデジタルマーケティングが最高の武器だというのも、半分は嘘だと思っています。ツーリストは、VRを使って現地の様子が体験でき、ECで海外のものが購入できる現代においても、現地に行って自分の手で購入したいという、リアルを求める人たちです。その行動をデジタルだけで予測するのはとても難しい。 たとえば、何か目的を持って旅行に来ていた観光客でも、街角で声を掛けてくれた女の子と知り合いになって、案内してくれるとなったら行先を変える。感情的な、現実世界で起きるいろいろな要素が行動に関係してきます。ツーリストにとって、リアルに訪問することに価値があるということを忘れてはいけないと思います。 高橋:その通りですね。デジタルだけではだめだと思います。以前新津さんとご一緒させていただいたプロジェクトでは、小売店の店員さんが片言で外国人観光客と会話できるようになりました。それをお客さんも面白がって、コミュニケーションが成立していたんですよね。リアルならではだなと思いました。 新津:これまでデジタルでは、ユーザーのストレスをなくすことを良しとしてサービスを作ってきました。でも、ツーリズムは苦労が体験なんです。言葉が通じなくて不便だからこそ、感動がある。それを忘れてはいけません。
ー支援事業者側に求められるものは何でしょうか。
新津:外国人目線を取り入れること、業界のスピード感に対応していくことが大事だと思います。その点、LIFE PEPPERさんはフットワークが軽く、学ぶ姿勢があっていいですよね。普段から外国人の方と仕事をして、他国の文化を体感しながら進んでいるのが良いと思います。 高橋:たしかに、韓国人社員に NAVER の使い方を聞くなど、外国人目線が当たり前になっているのは強みです。 新津:LIFE PEPPERさんと一緒に、インバウンドは思っているよりも「普通」なんだという感覚をクライアントに伝えていきたいですね。たとえば日本に来た台湾人は、ずっと寿司を食べたいわけじゃなくて、肉まんを食べたいこともある。だから台湾人向けに肉まんをPRしたっていいわけです。LIFE PEPPERさんはそういう感覚をわかって一緒にやってくれる会社だなと思います。 高橋:お褒め頂きありがとうございます。先ほど新津さんが言っていた内容に近いのですが、要するに「どこの国の人でも、うまいものはうまい、まずいものはまずい」。 その基本的なところは、どこの国の人でも違いはない。「Made in Japan」は素晴らしいですが、ベストではなく、強みの一つにすぎないと考えています。何が本当に自社の商品の強みなのか、そしてその強みでどうやってお客様に喜んでいただけるのか。そういう外国人の感性の実態をもっと多くの方に伝えたいと思っています。 その結果、日本人のマインドが変わることにより、いらっしゃる外国人の方が本当に満足され、次回の訪日やいい口コミにつながる。その結果がインバウンドでの真の成功につながる。単純な手法論だけではなく、外国人目線をインバウンドに生かしてほしいですね。
インバウンドが日本人をもっと自由にする
ー最後に、今後のインバウンド市場の展望を教えてください。
新津:インバウンド市場が広がることで、日本人はもっと自由になれると思います。これまでは、住む場所、パートナー、生産地、販売先、そのすべてが日本でした。でも、それが世界中どこでも良いということに、みんなが気づき始めています。 これまでも日本は、輸出大国として海外を意識してきました。でもあくまで「輸出」であって、事業者は日本から動かないわけです。しかし最近は、日本で作った商品を香港のドラックストアで、中国人向けに販売する化粧品メーカーが出たりしています。彼らは中国人をターゲットにして、日本よりも客数が多い香港で商品を販売することにしました。そこで、同じ商品でも、日本語のパッケージの方が売れ行きがいいことを知り、しかも、香港語交じりの方が「クール」と評判が良いことに気づくんです。すごい発見ですよね。 インバウンドが進むことで、商品開発にしても販売方法にしても、いろいろな国や業種で幅広い選択肢が生まれると良いと思います。それが、今後の日本に新しい価値を生み出していくと考えています。
対談者のプロフィール
一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会代表理事・事務局長
株式会社USPジャパン 代表取締役社長
新津 研一
マーケティングコンサルタント。三越伊勢丹営業本部戦略立案・推進担当として、店舗運営業務から営業戦略、新規事業開発まで幅広く担当。イセタン羽田ストアを手がける。2012年USPジャパンを創業。小売と観光の両面から新規市場創出と新たな価値創造に奔走する。
オリンピック・パラリンピック多言語対応協議会委員小売PT議長、日本百貨店協会外国人観光客誘致委員会アドバイザー、プレミアムフライデー推進協議会幹事、著書「外国人観光客が「笑顔で来店する」しくみ」
株式会社 LIFE PEPPER
取締役
高橋 佑輔
経済産業省で約6年間勤務し、退官後株式会社LIFE PEPPERに参画。アジア全般のインフルエンサー、ブロガー広告に精通し、複数の日本企業の海外進出・インバウンド戦略に関わる。妻が台湾人の人気ブロガーであり、実際に台湾現地の最前線でインフルエンサーマーケティングを学び、マーケティング戦略に反映。”その国の国民性”に着目したプロモーション企画で唯一無二の価値を提供している。
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