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物流サービスの充実で日本の観光体験はもっと豊かに。越境ECの知見をインバウンドへ活かす。【インバウンド仕掛け人 100】

訪日客数の増加に伴い、急成長しているインバウンド市場。東京五輪が開催される2020年には訪日客数が4000万人を突破するとも言われ、まだまだ伸び続けることが予想されています。そんなインバウンド業界で様々な仕掛けを行う先達たちと、株式会社LIFE PEPPER取締役 高橋佑輔が対談する「インバウンド仕掛け人100」。
今回は 国際宅配便業のECMSジャパン 代表取締役 小松さんとの対談をお届けします。

越境ECの知見をインバウンド事業に活用

小松さんの現在の事業内容

高橋:はじめに、小松さんが取り組まれている現在の事業内容を教えてください。

小松:弊社ECMSジャパンは、中国・北京に本部があるECMSグループの日本法人です。もともとECMSグループは欧米からアジアに向けたBtoCの物流をメインにやっていますが、日本でも越境ECビジネスが広がってきた中で、越境ECに特化した会社ということでECMSジャパンが設立されました。

我々は一言で言えば国際宅配便業者です。通常の国際宅配便業者はBtoBが得意な中、弊社はBtoCを得意とし、中でも越境ECに特化しています。発送対象地域は、中国、香港、台湾、韓国、タイ、マレーシア、シンガポールの7地域です。

越境ECで必要にな個人の配達物を輸出入する際の通関手続きの仕方は、国よって違う細かいルールがあります。税率や輸入規制などは、その国の社会問題や情勢によってもどんどん変わっていきます。その流れを把握していて、個人通関のノウハウを持っていることが強みです。また海外に物流機能のある拠点を持っていることも特徴です。

取引先は、インターネットショッピングサービスなどを提供するプラットフォーム系の企業や、プラットフォームに出店している企業、自社ECサイトを持っている企業などです。

なぜ越境 EC 配送のプロがインバウンドへ参入?

高橋:小松さんには、弊社の越境 EC事業でお世話になってますが、インバウンド業界参入には驚きました。越境ECに特化している貴社とインバウンドの関わりはどこにあるのでしょうか?

小松:外国人旅行者が日本で買った物を自国に送る配送サービスを提供しています。現状、外国人旅行者はコストの高さや配送手続きの複雑さからお土産を手で持って帰る人が多いです。弊社では、配送に関する問題点を解決することで、外国人観光客が荷物を気にせず買い物できるようにしています。

大事にしているのが、輸送費用の安さ。例えば外国人観光客が五万円の炊飯器を二つ買おうとした時、送料が二万円ですって言われたら、じゃあ一つだけ買って手で持って帰りますってなりますよね。

インバウンドの消費を促す上では、輸送費用をできる限り下げること、税金を含めた価格をわかりやすく提示してあげることがすごく大事だなと思っています。越境ECに特化して送料をいかに安くできるかを研究してきた弊社だからこそ、輸送の面でインバウンド市場に貢献できると思っています。

海外配送サービスで訪日客はもっと自由に買い物できる

インバウンド事業のきっかけ

高橋:小松さんがインバウンド事業に取り組み始めたきっかけを教えてください。

小松:取引先の家電量販店さんから「日本で買い物されたインバウンドのお客様が、海外に荷物を送る時の輸送業務はできますか」という問い合わせを受けたことが始まりです。我々の持っている個人通関のノウハウが、実はインバウンドで生きるということにお客様から気付かされたんです。

通常の物流企業がインバウンド市場に関わる場合、荷物を国内のホテルに運ぶことや空港に持っていくことまでしか考えません。
なぜなら、日本で買った個人の荷物を海外まで輸送するとなると、税金もかかるし、タバコなど物によっては輸送先の国で輸入制限されている物もあるので、それをその場で判断するためにかなりのスキルが必要なんです。また国によっては、マイナンバーで通関しなきゃいけないなど通関ルールも違うので、専門知識が必要です。そのため、海外輸送まではやらない企業がほとんどでした。

旅行者目線で見ても、買ったものを郵便局まで持って行って、配送手続きすることは自力で出来なくはないですが、言葉の問題もあるのでそこまでやる人って少ないと思うんですよね。旅の途中でも手軽に輸送できる仕組みが必要だと思いました。

そこで普段我々がBtoC事業で海外への出荷をやっている中で蓄積してきた、個人通関のノウハウが活かせると思いました。

配送ノウハウの事業化

高橋:それはかなり心強いです。ちなみに、蓄積されてきたノウハウをどうやって事業化しているんでしょうか?

小松:提携している会社やお店を対象に、外国人旅行者が買い物をした時に、輸送費用をなるべく安く、さらにその場で簡単に輸送できる仕組み作りを始めています。

まず、提携を結んだお店の店頭に専用の送り状を置かせてもらいました。店頭では送り状にお客さんの住所や名前などを書いて荷物に貼り、弊社の成田倉庫に送ってもらいます。するとお店側から我々に出荷情報の通知が来るので、そこから我々で通関手続きをして出荷をするという流れです。

今後、提携してくれる会社やお店を増やしてサービスを広げていく予定です。また、現在は手入力で対応している部分があるので、規模を広げ専用のシステムを開発しようと考えています。旅行をしている途中でも、その場で誰でも簡単に輸送できる仕組みがあれば、旅行者は容量を気にせずもっとたくさん商品を購入できるようになる。今まで以上に商品が売れるようになるので、お店にとっても嬉しいと思うんです。

高橋:その通りですよね。実際、輸送費用が高く、手で持って帰れないなら買わないという話はとてもよく聞きますね。誰でも簡単に安く輸送できるオプションがあれば買う人って多いと思います。

台湾の方とお話をしていて面白いのが、価格比較の考え方で、例えばダイソンの商品。台湾でももちろん買えるけど、日本で買う方が免税などの割引で安くなる。だから日本に旅行に来たときに買う。いわば越境価格比較です。

顕在化しているインバウンド事業のニーズに、インバウンド市場に現状ほとんど参入してきていない物流業界の会社が圧倒的熱量と専門的知識で参入してきているのがすごく面白いと思います。これまでのインバウンド市場には、海外配送・物流の視点が欠けていることに気付かされましたね。

物流面をサポートすることで素晴らしい日本を体験してもらいたい

現状の顧客ニーズ

高橋:現状どのような顧客ニーズがありますか?

小松:我々がお預かりするものは、大きくて重たい物がほとんどです。家電関係が一番多いですね。中でも炊飯器は一番人気です。あとはウォシュレット®️と空気清浄機。この3つは、インバウンドにおける三種の神器みたいなものです。

高橋:その定義、良いですね。その3つは、日本に来て実際に使ってみて感動したものでもあると思うんです。例えば日本に来る前から、炊飯器が良いっていうイメージを持っている方は多いです。日本に来て実際にお米を食べて感動する。「前から欲しかったし、良い商品だと実感したから買おうか」ってなった時に、ネックになるのが「持って帰ること」なんですよね。

「モノ消費」から「コト消費」、つまり物を買うことよりも何かを体験することに価値がシフトしていると言われていますが、私はまだまだ「モノ消費」の需要はあると思っています。買うこと自体が体験にもなりますしね。

小松:そうですよね。現在取り組んでいる配送サービスは、家電量販店さんの他にも、同じく物を売る立場である百貨店さんや小売関係の方もとても興味を持ってくれています。売り上げが増えればお店にとっても大きなメリットですから。どんどん商品を買って、手ぶらで帰ってもらう方がお互いに嬉しいですからね。

高橋:そうなれば、今後「日本に買い物をしに来る人」はもっと増えると思います。
今は LCC で来る人はお金がないだろうということで、マーケティングの対象に入らない場合が多い。でも、日本でたくさん買い物をしたいからこそ、移動費などにお金をかけない人もいると思うんです。よって、買い物目的で来日する人は現在把握しているよりも多いのではないかと思っています。今後さらに外国人観光客の買い物を後押しするのは、やっぱり物流。手ぶらで帰れる、手ぶらで観光できることは訪日インバウンド市場をさらに発展させる上では必要不可欠になると思います。

旅後までサポートできる物流の仕組みをつくる

インバウンド市場の展望と今後の取り組み

高橋:最後に、小松さんの目から見たインバウンド市場の展望と今後の取り組みについて教えてください。

小松:東京オリンピックも控えていますし、インバウンド市場が大きくなっていくのは間違いないと思います。その中で私たちは、現在のサービスの改善に加え、旅後のサポートまでしていきたいと思っています。

例えば、日本にある健康食品のリピート通販って、中国や台湾ではあまりないんです。日本に来た外国人観光客に商品を体験してもらって、気に入ってもらえたら自国に帰ってからも引き続き定期通販で買ってもらう。その仕組み作りと物流をサポートすることで、日本に根付いた通販文化を海外にも広められたら面白いと思っています。

高橋:それは面白いですね。確かに日本には優れたビジネスマンがいるので、通販など日本独特の仕組みを生み出すことはできていると思うんですけど、日本で確立した仕組みを海外にまで転用出来ていないところがあると思っています。島国である日本は、海外に輸送するとなった時に必ず海があります。それが一つの可能性を潰してしまっているんですよね。つまり小松さんの今やっていることは、ビジネス上でその海をなくすことだと感じています。

小松:そうかもしれないですね。旅後のサポートが根づけば、極端に言うと今後日本は体験エリアになるかもしれないと思っています。日本に来て、見て聞いて味わって色々と体験してもらう。そしてそこで使った商品を、自国に帰っても使ってもらう。旅行の一時期だけじゃなくて、日本で体験したことをライフスタイルの一部にしてもらう。そういう考えを持っている企業が多ければ多いほど、日本は観光客にとって魅力的な国になると思います。

ただ、旅前・旅中だけではなくて旅後にも注目するようなマーケットになってほしいですね。日本にある多くの店がすでにネットショップを持っていることは強みです。旅後のリピート通販までお客さんを連れていくような仕組みを日本の企業みんなでつくっていきたいと思っています。

対談者のプロフィール

株式会社ECMSジャパン 代表取締役
小松 英樹
1995年日本通運株式会社入社。国際航空貨物部門営業職、7年間の中国駐在を通じ、日中物流のプロフェッショナルとして活躍。
2016年ECMSジャパン代表取締役に就任。越境EC及びインバウンドに特化した国際宅配サービス「B2Cダイレクト」を開発し、日本企業の越境EC物流、インバウンド物流を多角度からサポートしている。2018年度ジェトロ(電子商取引分野)新輸出大国エキスパート。

株式会社 LIFE PEPPER  取締役
高橋 佑輔
経済産業省で約6年間勤務し、退官後株式会社LIFE PEPPERに参画。アジア全般のインフルエンサー、ブロガー広告に精通し、複数の日本企業の海外進出・インバウンド戦略に関わる。妻が台湾人の人気ブロガーであり、実際に台湾現地の最前線でインフルエンサーマーケティングを学び、マーケティング戦略に反映。”その国の国民性”に着目したプロモーション企画で唯一無二の価値を提供している。

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